「モニタリング」
近畿HACCP実践研究会
理事 猪野 祐二
HACCPに取り組むにあたり悩ましく思う項目がいくつかありますが、今回はHACCPの手順9(原則4)「モニタリング方法の設定」について、記述します。
まず、JFS規格のガイドラインでの解説「考え方」を紹介します。
モニタリングとは何か?
どのようにモニタリングを行うか?
全ての製品に対して適合していることをモニタリングすることが重要です。最初の1個から最後の1個まで、またはすべてのバッチ、すべての製品がCLを満たしていることを監視できるように、連続的または相当の頻度で行わなければなりません。
CLからの逸脱が起ったときに、出来るだけ影響を最小限にし、かつ容易に是正処置が取れる方法で行う必要があります。要約するとモニタリングとは、「後で行う検証」時に使用できる正確な記録とあり、連続的に且つ、速やかに結果が得られる方法で、CLからの逸脱が起きていないことを監視する。逸脱した場合は改善処置が取れる方法で記録することとなります。
つまり、品質管理部門が後日行われる細菌検査等は「後で行う検証」に当たり、製造中に相当な頻度で適切な管理が実施されているかを簡便な方法で記録することがモニタリングとなります。数値化できることが前提ではありますが、外観を目視確認することもモニタリングの一部と考えられます。出来れば、事前に製品の状態と外観の相関を確認しておくべきではありますが、例えば、焼き色や固まり具合などの外観と中心温度の関係など、数値化しにくい変化は経験から導かれたモニタリングになるでしょう。
作り手が自信を持って出荷できる製品であることを、作り手自らが記録することがモニタリングです。間違っても製造後日に品質管理が行う各種検査、特に細菌検査はモニタリングではありません。また、許容値からの逸脱が起ったときに、出来るだけ影響を最小限にするために、その場で是正できることが必要とあり、製造工程中に修正しなければ被害が大きくなってしまいます。何よりサンプリング検査では全品の安全は保証できません。
「中小企業におけるHACCPの現状と支援法について」
監事 亀田 華菜恵
ご存知の通り、食品衛生法が改正されたことにより、原則として2021 年6 月までに『全ての食品事業者』にHACCP 導入が義務付けられました。
大手企業の食品工場ではHACCP の導入を完了している場合も少なくありませんが、中小企業におけるHACCP 導入はまだまだ伸び悩んでいると言われています。
事業別に見たHACCP 導入状況
◆販売規模100 億円以上の企業
・導入済:89.9%
・導入途中:8.1%
・導入検討:2.0%
◆販売規模10 億円~50 億円の企業
・導入済:57.7%
・導入途中:17.0%
・導入検討:17.4%
◆販売規模5,000 万円未満の企業
・導入済:11.4%
・導入途中:2.0%
・導入検討:9.9%
参考:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/attach/pdf/h_toukei-2.pdf
上記のように、HACCP 導入に関しては事業規模が大きいほど導入が進んでいることが分かります。
しかし、HACCP は『すべての食品事業者』に義務付けられている以上、2021 年6 月に向けて早急に動き出さなければいけません。
ではなぜ取り組めていないのか?
◆中小企業でHAACP 導入が伸び悩む理由
・施設や設備の整備に係る資金がネック:78.1%
・コンサルタントや認証手数料などのコスト:60.7%
・導入後にかかるモニタリングや記録管理コスト:46.4%
・従業員に研修を受けさせる金銭的余裕がない:26.6%
・HACCP 導入手続きの金銭以外のコスト:40.6%
参考:農林水産省
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/sanki/haccp/attach/pdf/h_toukei-2.pdf
やはり多くの企業が金銭的なコストを問題視して導入を踏みとどまっていることが分かります。
実際に、小規模な飲食店などでHACCP の導入を考えた場合でも、50~100 万円程度の費用が必要になると言われており、さらに、HACCP 認証を更新する場合にも10~20 万円程度のコストが必要になってしまいます。
こういった導入のネックとなる金銭的負担を軽減し導入の推進を目的として『HACCP 支援法』という法律が制定されています。
<HACCP 導入には「HACCP 支援法』を活用しよう>
HACCP 支援法は、HACCP の導入による食品の製造過程の管理高度化を進めることが目的で、導入に必要となる施設・設備の整備に対する金融支援を講ずるものとなっています。
具体的な内容を簡潔にまとめると以下のような支援を受けることが可能です。
対象:食品の製造または加工の事業を行う中小企業者(資本金3 億円以下または従業員300 人以下等)
対象事業:建物の整備、衛生管理設備の設置、監視制御システムのための機械・設備の設置
限度額:事業費の80%以内または20 億円のいずれか低い額
※食品産業品質管理高度化促進(HACCP)資金の詳細は以下をご確認ください
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/a_10.html
これは、HACCP 導入の際に、多くの中小企業でネックとなる施設や設備の整備にかかる費用を、日本政策金融公庫から低金利で融資してもらうことができる制度となっています。
ぜひこの制度の利用を検討してみてはいかがでしょうか。
HACCP制度化を社員モラル教育のチャンスと考える
~食の安全確保は、モラルの高い企業風土育成から~
NPO近畿HACCP実践研究会
副理事長 落 亨
平成30年6月13日に食品衛生法の改正が行われ、HACCPの制度化が公布された。
制度化ということは、すべての食品事業者がHACCPシステムを導入する義務と責任
が生じたということである。であれば、どこよりも先にこの制度を利用してHACCP
システム導入に取り組み、さらに社員のモラル教育も同時に達成するチャンスであ
る。
具体的に言えば、HACCPシステム7原則12手順に取り組めば、まず一般衛生管理要件
のレベル未達を切実に、目の当たりにする企業が大半である。そこで、この一般管
理要件のレベルをお客様に安心して、納得してもらえるレベルまで引き上げるため
に5S(製造環境の整理・整頓・清潔・清掃・躾)に取り組み、製品の食品安全確
保を達成できる企業風土にすることが必要である。
実施に際しては、まず社長以下全員参画で徹底した整理・整頓からスタートする、
実施すると直ちに成果が表れる、作業スペースの確保、作業動線のスムーズ化、探
す手間の短縮、在庫管理の効率化、原材料、副資材の無駄な在庫の払拭など、目に
見えて仕事のやり易さが体験でき、さらに月度決算で儲かる実体験ができる。
このような体験をすると、社員全員の意識、お客様の立場に立って仕事をするとい
う前向きのモラルに大きく変貌する。このモラル向上ができてくると、HACCPシス
テムを導入し、SOP,SSOP等のルールを決めても全員が当然のごとく日常管理として
遵守する企 業風土が形成されるのである。
このような経過を積んだ企業の経験者がNPO近畿HACCP実践研究会には理事・幹事と
して所属しており定期的な講演会、交流会で紹介並びにフォロー等のお手伝いをし
ております。
ぜひ、今回のHACCP制度化を社員のモラルアップのチャンス、並びに会社を儲かる
会社への変革のチャンスと考え、どこよりも早く一般衛生管理要件のレベルアップ
から取り組むことを推奨します。
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特定非営利活動法人近畿HACCP実践研究会 事務局
大阪市淀川区木川西2?2?5 三和建設ビル内
https://www.workshop-haccp.org
HACCPシステムは食品企業における経営の基本
~一般衛生管理要件レベルアップのための環境整備の具体的進め方~
NPO近畿HACCP実践研究会
副理事長 落 亨
人材育成を含めた、「環境整備活動」の具体的進め方
1.小集団グループ結成(全員参画すること)
2.活動エリアの設定(徹底して整備できるエリア)
3.月度現場指導会の実施(社長が必ず参加)
4.半年区切り(半年で必ず結果を出す、審査員で評価)
小集団ごとに自分たちが活動するエリアを決めて、全社に宣言する、そして1ヶ月ごとに現場指導会で実施したことを発表し、社長以下審査委員から評価並びにアドバイスをもらう、活動時間は業務内外を問わない、時間外手当支給、その宣言したエリアの初期目標は半年で必達とする。
環境整備活動(5S)から得られる具体的成果
環境整備活動(5S)を進めていくと、次のような成果が目に見える形で実感できる。
1.無駄な作業動線の減少(交差汚染の危険度が下がる)
2.日常の、洗浄・清掃時間の短縮(生産性向上)
3.メンテナンスレベルアップで工程トラブルの減少(生産性向上)
4.異物混入などクレーム減少(品質向上)
これらの結果により、確実に利益に貢献してきます。この段階で社員はこの活動が儲かることを実感し、行動に対する達成感を得て、成長していきます。そして種々の自主的な改善・工夫が多くなってくることを、管理職を含めた経営層は現場指導会で、現物・現実を確認できます。
その結果、職場環境が変わり、設備が輝き、社員意識が前向きに変わり、会社の風土が大きく変わってきます。このような風土に代わると、HACCPシステムで取り決める種々のルールが確実に実行され、日常管理として定着してきます。
このように一般的衛生管理とHACCPシステムが両輪となり、食品安全マネジメントシステムが十分に機能して、消費者に対して製品の安全を確保して、安心と・信頼を得ることができる。
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